インバウンド政策における取組みの一つに、固有名詞の訳語の統一化があります。基本情報が不統一でブレてしまうと、さまざまな弊害が生まれてしまいます。道すがらの質問が噛み合わなかったり、行き先を間違えたり、予定通り移動できなかったり、余分な出費がかさんでしまったり……と。
 このため国土交通省・観光庁では、「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」を作成し、そのなかで統一的な多言語の情報提供を呼び掛け、用語集をまとめています。
 また、日本の地名に関しては、国土地理院でも自然地名や居住地名、施設名の訳語に関するガイドラインを示しています。
 地名や施設名等の固有名詞の翻訳ではガイドラインに沿い、正しい表記方法を用いつつ統一感をもたせることが必要となります。

●国土地理院では地名の多言語化をルール化


 国土交通省の特別機関である国土地理院では、「訪日外国人旅行者の円滑な移動と安心して快適に滞在できる環境を整備するため、地名等の英語表記規程及び外国人向け地図記号を定め、外国人にわかりやすい地図作成」等の取組みを進めてきました。

2016年3月には、観光立国の実現や2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の円滑な開催などに資するため、検討会を通じてルール作りを行い、「地名等の英語表記規程」を公開しました。地図は、英語、仏語、韓国語、中国語(簡体字と繁体字)、ローマ字の6言語のバージョンが作成されています。

 コロナ禍で一時、インバウンドの空白期がありましたが、海外との往来が正常化へと向かうなか、2025年の大阪・関西万博という訪日需要に向けた起爆剤も梃に、インバウンドが再び盛り上がる上でも、正確な地理情報の翻訳は多様な情報発信に一役買うことでしょう。

●表記は基本的に置換と追加方式の2通り


 国土地理院の「地名等の英語表記規程」の主な表記ルールのポイントは以下です。(条約等で既に使用されている英語表記がある場合は、その表記に合わせます)

1. ヘボン式のローマ字で表記
2. 表記の対象は、自然地名や居住地名、施設名
3. 表記ルールは、置換方式と追加方式

置換方式:用語が「固有名詞」+「普通名詞(地形・種別など)」で構成されている場合、「固有名詞」部分をローマ字表記に、「普通名詞」部分を英語に置き換える。
追加方式:置換方式を適用できない場合など、名称全体を一まとまりとして扱うべきものの場合、ローマ字表記の基本形に地形・種別を表す英語を追加する。

置換方式 追加方式
①単体の自然地名(山、川、湖、岬など)
富士山:Mt. Fuji 桜川:Sakura River
浜名湖:Lake Hamana
月山:Mt. Gassan 中川:Nakagawa River
霞ヶ浦:Lake Kasumigaura
②広域の自然地名(山脈、山地、平野、半島など)※置換方式が原則
関東平野:Kanto Plain  
③居住地名(都道府県、郡、市区町村、大字、字、丁目) ※置換方式が原則
東京都:Tokyo Metropolis  北海道:Hokkaido Prefecture(例外)
④施設名(道路、鉄道駅、空港、寺、神社、公園など)
種別を表す用語が統一されている場合は原則、置換方式

東京駅:Tokyo Station

道路や寺社など種別を表す用語が多種多様な場合は原則、追加方式

浅草寺:Sensoji Temple

 上記は大まかな分類手法になりますが、実際の適用については地形種別を表す漢字の読み方などからさらに詳細に分類した上で、追加か置換のいずれかの方法を採用します。

●住所の地方行政区分の英訳に定訳はない

 居住地名は、地図上では国土地理院の記載方法が参考にされますが、市町村などの地方行政区分の英語の定訳はありません。このため、郵便の住所名に、県=Ken、区=Ku、市=Shiなどのようなローマ字表記を当てているケースも多く見られます。但し、住所を英訳する場合、英訳の置換えか、ローマ字表記かいずれかで統一した方が良いでしょう。

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