企業の対外的なコミュニケーションの一環において、投資家への情報発信の機会・重要性が増すなか、各企業はインベスター・リレーションズ(IR)という一つの活動を通して専門的に情報発信を行っています。1990年以降、欧米で投資家との対話を重視する姿勢が強まっていく一方で、日本でも株式持ち合いの解消が進む1990年代後半からIRへの取組みが活発化してきました。
 IRとは、ステークホルダーが適切な投資判断を行えるために効果的な双方向コミュニケーションを実現するための手段などと定義されています。コミュニケーション活動には、法定ディスクロージャー(企業の情報開示)を柱に、各ステークホルダーへの理解を促進するための資料など多様な種類があります。
 近年では海外投資家の存在感が増すなか、こうした情報を公平に開示する必要性に応じて翻訳ニーズも高まっており、企業のIR戦略において翻訳は重要な役割を担っています。

ディスクロージャーは大別して3種類ある

 ここ数年、ディスクロージャーという言葉が定着していますが、これは企業の情報開示を総称したものを指します。大きくは、会社法や金融商品取引法に基づく法定開示、証券取引所の要請による適時開示、企業側が自発的に発信する任意開示の3つに分けられます。

・法定開示:法律によって義務化。継続開示の代表的なものは有価証券報告書。
・適時開示:証券取引所の規則による開示義務。「重要な会社情報の開示」を指し、投資家の投資判断に重要な影響を与える情報を適切なタイミングで公表することを意味する。一定の開示基準に従い、業績予想や増資、M&A、災害、訴訟など対象事項は多岐にわたる。
・任意開示:法定や規則によらず企業が必要に応じて発信するもの。投資家をはじめとしたステークホルダーに事業内容や経営戦略などを説明するものなどが挙げられる。

株主招集通知は英訳版の作成ケースが増加

 投資家とのリレーションにおいて最も重要なイベントは株主総会ですが、その開催については会社法299条にて上場会社は2週間前までに通知することが定められています。招集通知には、開催日時、場所、議題、提出議案を記載し、事前に取締役会の承認を受けた計算書類と事業報告書(会計監査報告書、監査報告書を含む)を添付します。
 議案については主に、定款の変更事項や役員の選任事項などがあり、前者は現行定款と変更案が併記され、また、後者は役員の略歴や候補理由などが記載されます。
 招集通知は海外投資家向けに英語版を作成する企業が増えており、翻訳に際しては招集通知の発送期限に間に合わせることが、何よりも大切になります。また、過去の招集通知や対象期間の有価証券報告書などと整合性を取る必要があり、いかに限られた時間内で複数の報告書類と統一性の取れた文章に仕上げるかが、精度の高い翻訳を仕上げるカギとなります。

任意開示の主な書類と翻訳のポイントについて

 IRは開示義務のあるもの以外にも、投資家をはじめ債権者や取引先、アナリストなどのステークホルダーに向けたさまざまな情報を提供しています。主なものとして、以下のようなものがあります。

・経営方針:中期経営計画
・業績等:アニュアル・レポート、業績説明資料
・環境等:CSR報告書、統合報告書
・株主向け:株主通信

 これらの情報を翻訳する上で最も重要な点は、用語・表現の扱いになります。なかでも、中期経営計画では、新たに打ち出される目標を、キャッチフレーズを用い独特の表現で表したり、新しい商品やサービスのコンセプトを打ち出したりする場合があります。原語が日本語の場合、二重の意味を込めたキャッチコピーなどで表現されることが往々にしてありますが、その際には、原文の意味を咀嚼した上で、ネイティブが理解できる訳語に置き換えることが肝要になります。

 一度、新たな固有のフレーズやセンテンスの翻訳が決まった場合は、あらゆる書類上でその用語は同一の訳語を使用する必要があります。同様に、IRの書類はそれぞれが重複する情報が盛り込まれていることが多く、その訳語は書類間において統一性が図られる必要があります。

 また、株主に対する直接的な情報発信メディアである株主通信などは、一般的な報告書と異なり、非常に丁寧な文体で記述されています。英文で表現する場合は、丁寧な単語や修飾語を駆使し、格調高く滑らかな文体に仕上げることが求められます。そのため、翻訳者は翻訳技術とともに、上質なライティング力を兼ね備え、原文の表現力と同質の文章で意図を伝えるよう心掛けています。

サイマリンガルは、企業のIRをサポート致します

サイマリンガルでは、創業以来、金融分野に注力してきた実績があり、招集通知、中期経営計画、アニュアル・レポート、適時開示、株主通信などのさまざまな文章の翻訳を通じて、企業のインベスター・リレーションズをサポート致します。
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