日本国内の企業だけでなく、海外の企業とも仕事をすることが一般的になっている現代でも、語学の壁は非常に分厚いのが現状です。

そのため多くの企業では、英語をはじめとする語学に精通している専門家や、翻訳を専門に行なっている会社に、自社の重要文書の翻訳を依頼しています。

そのなかでも、とくに専門的な知識や技量が求められている翻訳のひとつが、財務翻訳と呼ばれている分野です。今回は財務翻訳について、定めておくべきスタイル項目や翻訳時の注意点などを紹介します。

財務翻訳とは

財務翻訳とは、企業が作成している財務情報に関する文書の翻訳のことです。近年は日本企業でも、日本語以外の複数言語を用いた企業情報の発信が、強く求められています。

そうしたニーズに応えるために、財務翻訳に特化したサービスを提供している翻訳会社も増えています。

財務報告書や法定開示文書など、一般文書以上に間違いの許されない文書の翻訳業務なので、数値の正確さはもちろん、読み手の誤解を招かない文書を作成するライティング技術が求められます。扱っている文書の性質上、翻訳スキルだけでなく、会計スキルも必須です。

財務翻訳で定めておくべきスタイル項目

財務翻訳を行う際には、ある程度定めておくべきスタイル項目があります。会計に関する文書は、主に数値に関するスタイル項目を事前に決めておくことで、全体的に整い、見やすくなります。

では、実際に財務翻訳をするにあたって、どんなスタイル項目が必要なのでしょうか。いくつか取り上げてみました。

通貨単位

財務翻訳時、必ず使用することになる通貨単位のスペルアウトや、通貨記号を使用するか否かなどの表記ルールは、事前にしっかりと統一するようにしましょう。

日本国内では、これらの通貨単位の表記はかなり自由度が高く、さまざまな形式で金額の記載がなされていますが、海外の会計報告では、通過記号を用いるのが一般的です。また、ドルのように複数の国で使用されている通貨単位については、慎重に扱う必要があります。

たとえば、ドルは一般的にはアメリカドルを指しますが、取引によっては台湾ドルや香港ドル、カナダドル、オーストラリアドル、そしてニュージーランドドルなどがあり、明確な通貨の識別が必要です。

文書作成時に、複数種類の通貨を使用することも珍しくないので、何をどのように識別するのかまで、あらかじめ決めておきましょう。

そのほかにも『billion(10億)』のような大きな単位を扱う場合、何桁まで表示するのかも事前にルールとして決めておくと、より統一性のある見やすい文書に仕上がります。

数値の記載

財務翻訳では、会計関連の数値の記載などが行われますが、この数値の記載にも細かいルールを設定しておく必要があります。

財務翻訳で用いられている数字は、基本的には1から10までをスペルアウトし、11以上の数値はアラビア数値での記載が一般的です。そのため、これに準ずる形で文書を作成すればまず間違いないでしょう。順序を表す序数についても同様です。

また日本の財務諸表において、数字のマイナスを表す際は『△』が広く用いられていますが、これは日本独自の文化であり、海外では一般的ではありません。欧米ではマイナスの数値を表す際は、括弧を用いて記載します。

文書に載せる金額は、文章中であっても常にアラビア数字で記載します。もし異なるのであれば、事前にどのような表記を行うのか必ず決めておき、表記が揺れないようにしましょう。読み手にわかりやすい、親切な文書を作るためには必要な気配りです。

番号(階層づけ)

財務翻訳をする際に意識したい文書の見やすさ、わかりやすさを語るうえで、ナンバリング(階層づけ)は大切です。階層と表記方法を明確にしておくことで、文書のどの階層に、どんな情報が記載されているのか、読み手が理解しやすくなります。

和文と英文では、このナンバリングの記載方法が若干異なっています。翻訳するときはしっかりと意識をしておきましょう。

勘定科目

勘定科目とは、取引の内容をわかりやすく分類するために使用される科目のことです。お金や取引の性質を表す見出しと言ってもよいでしょう。

勘定科目は、毎年金融庁が発行している『EDINETタクソノミ用語集』に合わせて作成するのが通例です。『EDINETタクソノミ用語集』は『EDINET(エディネット)』が提供している、財務報告のための電子的雛形のことです。

ここで定義されていない勘定科目については、勘定科目をあらかじめ翻訳した後で用語集として定め、翻訳会社としっかり共有することで、思わぬミスや誤訳につながる可能性を防げます。

『EDINETタクソノミ用語集』は毎年更新されているので、財務翻訳を行う前に、使用する勘定科目のチェックを欠かさず行うようにしましょう。

会計年度

財務翻訳をする際は、会計年度の表示方法もスペルアウトをするのか、それとも省略形を使用するのか、事前に決めておきましょう。

財務諸表はどうしてもスペースが限られてしまうので、省略したい場合は仕方ありませんが、文章中のルールは統一しておくと見やすいだけでなく、作成時にも迷いません。文書を見る人だけでなく、翻訳者も安心できるでしょう。

日付

日付の表示は、翻訳先によって異なるので事前にしっかりと確認しておきましょう。たとえば、アメリカでは日付は『January 2, 2023』のように、月、日、年度の順で表記します。

いっぽう、イギリスでは『2 January 2023』のように、日、月、年度の順で表記します。読み手への配慮を忘れてはいけません。

当社/当社グループの表記方法

財務翻訳のなかで、必ず用いられるのが『当社』や『当社グループ』といった自社を示す表現です。これらは翻訳する際に、会社名をそのまま翻訳に用いるのか、それともシンプルに『The Company』や『The Group』とするのか、あらかじめ決めておきましょう。

後者の記載方法を使用する場合は、文章のなかで最初に該当の単語が出てきたときに定義付けしておくのが一般的です。

財務翻訳における注意点

財務翻訳のスタイル項目について学んだところで、実際の財務翻訳において注意しなければいけないポイントを紹介します。

翻訳サービスにおける会社選びの基準は、こちらの記事でも紹介しています。

情報漏洩に気をつける

財務翻訳に限った話ではありませんが、何よりも情報漏洩には注意しましょう。財務翻訳で扱うデータは会社の経営状況や業績など、機密情報に該当するものばかりです。

もしこれらのデータが外部に漏れてしまったら、取引の中止や株価の暴落、営業機会の喪失など、多方面に多大なる迷惑をかけることになります。

最近は紙媒体のみならず、インターネット上のクラウドなどでデータのやり取りをする機会も増えています。翻訳データの取り扱いや、サーバーのセキュリティ面にもしっかりと気を配りましょう。

翻訳する文書ごとに違いがある

財務情報に関する文書の翻訳といっても、扱う文書によって、翻訳時に気を配るポイントが異なります。

たとえば、投資家に起こりうる不足の損害に備えて、開示を義務付けられている『法廷開示文書』の翻訳をする場合、原文を訳した後で最新情報の追加や修正をすることも少なくありません。

それぞれの文書で、読み手が知りたい情報とは何なのか、翻訳の際はどのようなチェックや修正が必要なのか、具体的に注意点を把握しましょう。

機械翻訳には限界がある

近年の機械翻訳の精度は飛躍的に向上しており、海外旅行をする際も機械翻訳アプリを用いることで、現地の人たちと問題なく意思疎通を行えるほどです。

この機械翻訳は翻訳業務にも導入されており、作業効率の上昇、そして人的リソースの削減など、さまざまな恩恵を現場に与えてくれました。

しかし、機械翻訳ですべての文書を正確に、かつ自然に訳せるかといえば、答えはNOでしょう。とくに機械翻訳は、ひとつの文章が長くなればなるほど、翻訳ミスが増える傾向があります。

自然な文章になっているか、数字の翻訳は正確に行われているのかなど、最終的には人の目で確認する必要があるでしょう。

まとめ

財務翻訳で定めておくべきスタイル、そして翻訳時の注意点についてまとめました。一般的な翻訳業務と比較してみると、財務文書の場合はやはり数字を多く扱う分、より正確な作業と、ミスを見逃さない細やかなチェックが必要ということがわかります。

最近は機械翻訳に代表される便利なツールが登場し、翻訳する側の負担も徐々に減ってきてはいますが、まだまだ人間の手による翻訳やチェック作業は欠かせません。

読み手に正しい情報をしっかりと提供できる高品質の翻訳には、新しい知識のアップデートなど、日々研鑽を重ねていく必要があります。こうした作業の継続は難易度が高く、翻訳の専門家への依頼が現実的でしょう。

また、翻訳を依頼する際は、翻訳の技術だけでなく、セキュリティがしっかりしている翻訳業社を見極めなくてはなりません。

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