ここ数年、国外に向けて精力的に広報活動を行う企業が増えています。国際社会のグローバル化が進んだことで、国内の企業だけでなく、海外の企業や投資家とビジネスを行う機会も増加したからです。
そのため、1990年代後半からは積極的にIRに取り組む企業も増え、それにともない、上質な文書を作成できるIR専門の翻訳の需要も高まりました。
そこで、今回はIR翻訳の依頼先を選ぶ際のポイント、そして翻訳の料金相場や依頼する利点について解説していきます。
IRとは
IRとは『インベスター・リレーションズ(Investor Relations)』の頭文字を取ったものです。日本語では『投資家向け広報』と呼ばれ、株主や投資家たちに向けた会社の経営状況や財務状況、業績の実績などの広報活動全般を指します。
ホームページ上での情報開示、ディスクロージャー資料の送付などが、一般的なIR活動として知られています。ここ最近では、工場などの自社施設の見学会を実施するなど、独自の方法でIR活動に取り組んでいる企業も増えてきました。
金融翻訳におけるIRの重要性
株主や投資家にとって、情報は非常に重要です。株主は株を購入し、その配当を受け取ることで利益を得ているので、会社の経営状況などを常に把握し、投資をするのかどうか判断を行っています。
IRは、投資家たちの判断基準となる重要な情報です。IRでは、その企業の将来性や収益が開示されており、広く閲覧されています。
そして、このIRを見ているのは日本人だけではありません。海外の企業や投資家たちも、定期的に企業側が公開しているIRをチェックしています。
IRは、基本的に企業が自発的に行うものであり、必ず公開すべきではありません。ですが、彼らに対して企業の情報を公開することで、新たな投資を促す役割もあります。
もちろん、日本語ネイティブではない読み手に対して、正確な情報を届けるためには、質の高い翻訳をしなければなりません。
そしてIR翻訳は、金融に関する専門知識も必要になるので、その内容の重要度と比例して、翻訳の難易度が非常に高い分野のひとつなのです。
IR翻訳の依頼先を選ぶ際のポイント
ここまでIR翻訳の概要、そして重要性について取り上げてきました。続いては、実際にIR翻訳を任せるときの翻訳会社、翻訳者の選び方について紹介します。
重要文書を任せるので、きちんとした会社や翻訳家を選ばないと大きなトラブルに発展しかねません。信頼できるビジネスパートナーを見分けるポイントを、しっかり覚えておきましょう。
翻訳できる言語の種類
最初にIR翻訳を翻訳会社に任せるうえで確認しておきたいのが、対応できる言語の種類と数です。
一般的にIR分野の翻訳で扱われているのは、英語、日本語、中国語の3種類です。複数の言語に翻訳する必要がある場合は、その会社が多言語に対応しているのか、事前に確認しておきましょう。
言語の範囲は翻訳会社ごとに異なっているので、それぞれの会社の得意分野を比較しながら選ぶとよいです。
また、翻訳会社に仕事を依頼する際、複数言語の翻訳を任せる場合でもひとつの会社に絞ることをおすすめします。これは翻訳会社が異なることで、言語間の表現に大きな乖離が生じる可能性があるからです。
機密保持の面でも1社に絞る方が安全なので、特別な理由がない限り、複数の会社への翻訳依頼はやめておきましょう。
IR分野に優れた翻訳者の在籍有無
翻訳には、言語に関する高度な知識以外に、翻訳する文書の分野に関する専門知識や経験が求められます。とくにIR翻訳の場合は、より深い知識と理解、そして経験が必要です。
たとえば、証券会社や金融機関、そして経営アナリストとして働いていた人は、金融に関する専門知識と経験があります。IR翻訳を任せるのであれば、きちんと現場で実績を積んでいる翻訳者を選びましょう。
IR翻訳で重要なのは、専門知識の有無だけではありません。企業情報や業界の動向をしっかりリサーチし、国内外の経済情勢を適切に理解し、把握できる情報収集能力を有していることも大切です。
IR翻訳で扱う情報は、正確性が求められます。情報収集を怠らず、常に最新の情報を入手することで、より高品質な翻訳文書の作成が可能でしょう。
翻訳におけるバックグラウンドの重要性について、こちらの記事も参考にしてください。
機密情報保持の体制
他社に自社の仕事を任せる場合、機密情報の取り扱いには注意が求められます。とくにIRや財務文書の翻訳で扱う情報は、企業にとって重要なものばかりです。仕事を依頼する際は、確実に機密情報を保持してもらえるのかチェックしましょう。
たとえば、近年は企業活動のデジタル化が進み、機密情報や重要文書をオンライン上のクラウドでやり取りすることが一般的になっています。
そのため、サイバー攻撃などによって情報が流出しない仕組み作りや、セキュリティ対策を会社側がしっかり行っているのか、事前に確認しましょう。
また、必要に応じて契約書を取り交わすことも有効な手段です。お互い気持ちよく仕事をするためにも、セキュリティ周りの問題点や疑問点は、しっかり払拭しておく必要があります。
品質・対応スピード
IRには公開期日という期限が存在しており、この期限通りに情報を公開する必要があります。万が一この期日が守られなかった場合、会社の信用に関わる重大な問題に発展しかねません。
しかしIRは扱っている情報の性質上、期限直前になっても必要な情報が出揃わないことも珍しくなく、限られた日数で翻訳を終わらせる必要があります。そのため翻訳会社を選ぶ際は、高品質な文書をスピーディに対応してくれるかを基準にするとよいでしょう。
事前に作業フローや、翻訳作業完了までに必要な日数を確認しておくと、トラブルが起きたときの対応もスムーズになります。
IR翻訳の料金相場
IRを含む金融ジャンルの翻訳の料金相場は、英語から日本語への翻訳が1ワードあたり30円、日本語から英語への翻訳が1ワードあたり25円というのが一般的です。料金設定は翻訳会社によって異なるので、ここで紹介した料金相場はあくまで参考の金額です。
また、翻訳対象言語によって、翻訳の料金相場は大きく変化します。たとえば、中国語の場合は1ワードあたり10円前後が相場です。
この料金相場を知ったうえで、翻訳の仕事を依頼する際の注意点がひとつあります。それは、あまり翻訳の料金設定が安い翻訳会社には仕事を頼まない方がよい、ということです。
もちろん、安い値段で高品質の文書を納品してくれる翻訳会社も存在しますが、基本的に値段と翻訳の質は比例します。
値段が安い翻訳会社は、翻訳者の経験が浅い、その言語に対応して日が浅い、ほぼすべての工程を機械翻訳に丸投げしているなど、安くなる理由が必ずあるものです。仕事を依頼する際は、注意しておきましょう。
IR翻訳を依頼する利点
ここでは、IR翻訳の利点について取り上げます。IR翻訳を依頼することで得られるメリットとは何か、いくつかピックアップしました。
海外の株主・投資家の目に入る機会を広げられる
日本語にしか対応していないIRと、英語や中国語など複数言語に対応しているIR、どちらがより人の目に触れる機会が多いかは、言うまでもないでしょう。
IR翻訳を行うことで、海外の株主や投資家たちに自分たちの会社の情報を届け、投資に繋げる機会を増やすことができます。
現在、日本企業における有価証券報告書の英文開示割合は15%程度と、高いとは言いがたい状況です。それでも、海外投資家に向けたIR資料の翻訳は増加傾向にあります。海外からの投資を促すためにも、IR翻訳の存在は非常に重要でしょう。
競合他社との差別化や株の安定につなげられる
とあるアンケートによると、日本の企業のなかでIRを行なっているのは全体の97%ほどで、ほぼすべての会社がIRを行なっています。ですが、そのなかでIR翻訳も行なっている企業は、まだ多いとは言いがたいでしょう。
IR翻訳は、その企業にとって他社との大きな差別化要素となります。自分たちの情報を日本の市場だけでなく、海外の巨大なマーケットまで届け、さらにそれを自由に見られるようにしているのです。
もしこの情報を海外投資家たちが評価すれば、競合他社に差をつけ、さらに株価の安定を図ることにも繋がります。IR翻訳は、企業にとって非常にリターンが大きいのです。
まとめ
IR翻訳の依頼先を選ぶ際のポイント、そして料金相場や依頼する利点について紹介しました。企業にとって自社の情報を広く知ってもらうために、IR活動は当たり前になっており、その重要性も高まっています。
IR翻訳は、国内の投資家たちだけでなく、海外の投資家たちへ情報を届けるためにも非常に大切な作業です。そのため、高品質の文書を作成し、納品してくれる翻訳会社、翻訳者の存在は、ますます重要になっています。
IR翻訳には翻訳する言語の知識のみならず、翻訳する文書に関する分野の専門知識、そして情報収集に優れていることが必須です。
仕事を依頼される側は、専門性が高い仕事であることを自覚し、仕事を依頼する側も相手が翻訳を任せるに値する能力を持っているのか、見極める必要があるでしょう。